推しの誕生日

昨年の推しの誕生日は最悪だった。彼のファンは皆同じ気持ちでいたと思う。推しのプライベートにまつわる報道が原因で、それまで精力的に活動していた推しが突然表舞台から姿を消し、雲隠れの真っ最中だったから。
本人の不在もさることながら、ほとぼりが冷めるまで推しと推しにまつわる仕事や情報の一切を隠してしまおうとする意図が透けて見える事務所の対応や、真偽不明の報道をあたかも黒であったかのように語る無責任なファンダムによる憶測や揶揄、見るに堪えない暴言にほとほと疲れ切っていた。数ヶ月間に渡る雲隠れを経て姿を現した推しは、ファンに心配をかけた旨の謝罪文を出し、間を置かず入隊した。

一年後、今年の11月27日、推しは軍のミュージカルに出演していた。韓国国連加盟30周年という記念碑的作品で主役を張っていた。
軍ミュに出演すると聞いた時、正直反応に困った。韓国の兵役と日本は無関係ではないから。推しの活躍は嬉しい。だけど兵役にまつわるコンテンツを肯定したくはない。しかし今現在過去の歴史をろくに反省していない日本人の立場で兵役の在り方に口を出すこと自体そもそも憚られるのではないか。複雑な気持ちだった。
10月に1公演、11月の推しの誕生日に2公演の計3回、オンラインで観た。ミュージカルはとても良かったし、兵役中という本来であればファンが姿を見られない期間に推しの新たな活躍を見せてもらえて本当に嬉しかった。

誕生日の昼公演、カーテンコール後に抽選イベントがあり、その流れで推しは舞台上に集まった共演者たちから大きな赤いリボンを首から下げてもらい、「Happy Birthday to You」を合唱され、盛大に誕生日をお祝いされていた。
泣いた。昨年の地獄のような誕生日が思い出されて、また一年後こんな光景を見ることが出来ると思っていなくて、救われた心地だった。

彼のファンなら皆知っている。彼がそこらへんの人よりずっと人が好きで、人懐っこくて、人の喜ぶ顔が見たくて、そのためにいつも全力で、愛情を与えることを惜しまない人だということを。感受性が高く繊細で、人が好きだけど同時に人の目が気になるタチで、メンバーたちから心が傷付きやすくて心配だと言われるような人だということを。そんな人が昨年どんな気持ちで誕生日を過ごしたのか。大事な人たちと一緒に過ごせただろうか。どうか一人じゃありませんように。心が守られていますように。どれだけ願ったか分からない。
それが今年はたくさんの人に囲まれ、あたたかい言葉を掛けられ、ニコニコ満面の笑みを浮かべる推しを見ることが出来て、この一年抱えてきた負の感情をようやく少し浄化出来た気がした(推しの、リボンを掛けられた瞬間の、照れ笑いとも泣き笑いともつかない一瞬の表情は、この先ずっと忘れられないと思う)。

推しという人間について自分は何も知らない。会ったこともなければ言葉を交わしたこともない。自分が見て知った気になっているのは画面越しに見ている虚像だ。
日頃盲目的に語ってばかりいるけど、実際そんなに盲目でもないと思う。作品がつまらないと思ったらつまらないと言うし、アイドルとして完璧なら裏で何をしててもいいと割り切れるタイプでもない。職業アイドルとして素晴らしいのと人間性が素晴らしいのはまた別の話であり、人として許容出来ないと思ったらその時はきっとファンをやめるのだろう。

それでも画面越しの推しに励まされ、癒され、明日を乗り切る糧となっているのは事実なので、出来るだけ長く応援したいし、推しにも幸せでいてほしい。仕事でやりたいこと全部叶って、努力も苦労も全部報われてほしい。大事な人たちとずっと一緒にいてほしい。人に注いだ愛情の分だけ世界中の人から愛されてほしい。お日さまみたいな笑顔がこの先も曇ることなく、笑って日々を過ごせますように。

お誕生日おめでとう。