『THE FIRST SLAM DUNK』※ネタバレ含

youtu.be

劇場鑑賞回数が二桁を超えたので、いよいよこれは書かなければならないと思った。1月に観て以来、スケジュールの許す限り映画館に通い詰め、気付けば6月になっていた。

漫画『SLAM DUNK』を読んだことがなかった。漫画やアニメを好んで楽しむタイプではない上に、スポーツ全般に関心がない。漫画読まない・アニメ見ない・スポーツ興味ないの三拍子揃った人間がスラムダンクに出会う確率ってたぶんそう高くない。そんな人間がどうして『THE FIRST SLAM DUNK』を観に行ったのかと言うと、評判がすこぶる良かったからに他ならず。原作は知らないけどまずは観てみようじゃないのと「良い映画」観たさに軽い気持ちで観に行った結果、こんな筈では…と呻きながら今日まで映画館に足を運び続けている。

 

ここまで書いて二ヶ月も放置していた。書きたいことがありすぎてまとまらず、書いては消し書いては消しを繰り返していた。書きあぐねているうちに8/31終映が発表され、慌ててこれを書いている。

 

『THE FIRST SLAM DUNK』の何にこんなに胸打たれるのか。いろいろ考えたけれど、やっぱり「宮城リョータの人生の物語」であり「彼にとってのバスケと山王戦」であることに尽きると思う。原作は桜木花道の物語だった。しかし山王戦に立った一人一人に物語があったはずで、宮城リョータもその一人である。彼のこれまでの人生とバスケ、それに連なる山王戦という舞台を描く、彼の物語として捉え直したのが今作だ。

宮城の人生を一言で表すなら「逆境」だと思う。バスケを教えてくれた最愛の兄を亡くしてからずっと、辛い境遇を生きてきた。母親との折り合いが悪く、転校先にも馴染めず、理不尽な暴力を振るわれたりする。子供の力ではどうすることも出来ない理不尽に晒されても、鬱屈を胸の内に抱え、じっと耐え、「平気なフリ」をしてやり過ごす。そして一人黙々とドリブルの練習をし続ける。ボールと向き合っている時間だけは息をしていられるから。

そんな押し潰されそうな脅威と常に向き合わなければいけなかった宮城の生い立ちは、最強王者・山王工業を目の前にコートに立つ心境とリンクする。自分より体格のいい、格上のPGと真っ向からぶつからないといけない恐怖とプレッシャー。鉄壁のゾーンプレスをもろに喰らい、味方にパスを繋ぐことが出来ない絶望感。試合でも自分の人生でも、思い通りにいかない「逆境」の局面をもがきながらも自分の力で切り拓いていく様子に何度も胸を打たれた。

全国のPGが心を折られたという山王のゾーンプレスに屈しなかった唯一のPGが、平均身長より小柄で恐らくどこのPGよりも体格的に不利だったであろう宮城である事実に胸が熱くなるし、ラストのプレスを自力で突破するシーンでは目頭が熱くなる。人と衝突したり裏切られたりすれ違ったり、思うようにいかなくて傷付いても、自分の足で立ち続ける彼の強さと健気さを思っては胸が苦しくなる。「ソーチャンが立つはずだった場所」と話す、「望まれているのは兄であり自分ではない」という思いをずっと抱えてきた宮城に安西先生がかける「ここは君の舞台ですよ」の言葉を噛み締める。そして逆境に打ち勝った、バスケだけを拠り所に生きてきた彼の、「自分のためのバスケをする」というこの先の未来が幸せなものであってほしいと願わずにはいられないのだ。

宮城リョータのバスケ人生を語る上で欠かすことが出来ないのが、チームメイト・三井寿の存在である。
初見で抱いた「チームメイト4人の中で1人だけ明らかに宮城の特別な存在として描かれているこの三井という男は何?」のアンサーが、「膝の故障が原因でバスケ部を一時離脱していた元不良。期待の新人だった一学年下の宮城に嫉妬から目を付け集団リンチした。それだけでは飽き足らず不良グループを引き連れバスケ部を襲撃。返り討ちに遭い改心した後バスケ部に復帰した。実は中学生の頃に宮城と出会っており、一人ぼっちでドリブルの練習をしていた宮城に声をかけ1on1に誘ったことがある。その際宮城は三井に亡くなった兄の面影を重ねている」だったの、あまりにも宮城の人生に食い込みすぎてて処理しきれない。

三井が宮城にしたことは本当に酷い。
孤独だった時にフラッと目の前に現れバスケに誘ってくれた、どことなく最愛の兄を思わせる年上の少年が、再会したら出会った時の見る影もなく、バスケする自分を憎んで暴力を振るってくる。心の拠り所にしていた相手からリンチされたことが決定打となり、やけっぱちになった宮城は、バッシュを封印し、無茶なバイク運転の末に事故を起こし生死を彷徨う(書いてて辛くなってきた)。
三井自身も挫折して辛かったとはいえ、バスケしかなかった子からバスケを取り上げてやろうと追い回し、思い詰めて自死未遂に走るまで追い込むなんて、到底許されることじゃない。

それでも宮城は三井がバスケ部に復帰するのを拒否しない。出会った当初は兄を重ねた目の前の相手が、寧ろバスケを手放すことが出来ない自分と同じ人間だと認め、チームメイトとしてパスを出す。
宮城にとっての三井はバスケを手放さずにいられた存在であり、三井にとっての宮城は一度は手放したバスケを取り戻すことが出来た存在であるという、お互いのバスケ人生に大きく影響を与える二人が、山王戦で阿吽の呼吸の連携プレーを見せ、王者を相手に猛追する様にエモが止まらない。連続3Pを決める三井を嬉しそうに見つめる宮城(初めて出会った時の中2の三井を思い出したりする)を見ているこちらの情緒はめちゃくちゃである。「4点プレーのノールックパスは二人の信頼のなせる技」という解説コメント*1を事あるごとに反芻してしまう。

「キャラクターの人物造形やバックグラウンドはそのキャラクターと対話するうちに出てくるもの」「映画化するにあたって宮城と対話する機会が巡ってきた」という話を井上監督がされていたが*2、映画を観てもう一度原作を読むと、原作ではほとんどフォーカスされてこなかった宮城のキャラクターが少し違って見えてくると思う。
あのシーンのあの台詞、あのシーンのあのプレーもより意味を持って立ち上がってくるかもしれない。原作の「生意気で喧嘩っ早い」と評される飄々とした宮城リョータは、辛い経験を経て、「平気なフリ」という彼なりの武装をし、洞窟の秘密基地で兄が語った夢を思い出し、自分がバスケをする意義を取り戻した、覚悟を決めた宮城リョータなのだ。

『THE FIRST SLAM DUNK』の好きなところはたくさんある。『LOVE ROCKETS』が流れるOPから最高という話も、リョータという人間に大きな影響を与える兄・ソータの存在も、親子のすれ違いと和解も、理想のキャプテン像とギャップ、素質の開花と継承の話も、リョータリョータのメンターであるヤスと彩ちゃんの二年生トリオが尊いという話も、山王戦での花道・流川・三井・赤木それぞれの活躍も、絶対に諦めない湘北の大健闘も、王者・山王の風格とスポーツマンシップがかっこいいという話も、『第ゼロ感』が宮城リョータの主題歌としてゲキアツという話も、他にもまだまだたくさんある。書ききれないのでここでは書かないけど。

半年以上もこんなに夢中になれる作品に出会えて本当に嬉しい。映画にしてくれてありがとうと言いたい。『THE FIRST SLAM DUNK』が映画じゃなかったら絶対にスルーしていたし、きっとまだスラムダンクに出会えていなかったと思うから。

終映が寂しい。きっとしばらくロスを引き摺ると思う。

*1:実況解説コメンタリー上映にて

*2:COURT SIDE in THEATER FINALのインタビューにて